日曜日, 10月 24, 2010

はやぶさ

 今一冊の本を読んでいて、とても元気づけられている。「はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語」という新書で、これが書かれたのははやぶさが地球に戻ってくる前の2006年だ。恥ずかしながら僕が探査機「はやぶさ」のことを知ったのは、2010年6月13日に無事地球に帰還してニュースになったときだ。この大ニュース以前に本書は、はやぶさを人類史上初の大冒険であると伝え、開発にまつわる物語を極玉のサイエンスノンフィクションとして描いている。数あるはやぶさ本のなかでも、特に読みごたえがある本だと思う。とにかく文章がいきいきとしていて面白い。著者を知ってびっくしりた。理系なら多くの人が知っているだろう「オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ」の著者、吉田武さんだった。数理工学の先生だと思い込んでいたので「えっ」という感じだった。
 1章には「宇宙開発の父」と言われる糸川英夫博士が、いかにして逆境から成果を生み出してきたかが書かれている。正確に言うと、吉田さんが糸川博士の気持ちを代弁をしているわけだが。p.72の好きな段落をちょっと長いが引用したい。
 (燃料が)個体か液体か、という論争は目的達成の立場から見れば、全く意味の無いものである。何であろうと、ロケットを正しく飛翔すればそれでいいのであるから。しかし、頼みもしないのに向こうからやって来てくれた折角の試練である。それを真正面から受けて克服するとき、技術の分野に大きな進歩がもたらされる。科学も技術も、安住の地には、その華を咲かせない。安易な妥協をすれば、営々と築き上げて来た技術を継承できなくなるだけでなく、肝心の探究心すら失ってしまう。

 心に留めておきたい言葉だ。

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