土曜日, 8月 30, 2008

ゆらぐ脳

 最近読んだ本を紹介します。池谷裕二さんの「ゆらぐ脳」。以前、理研であったセミナーを拝聴して以来、注目している脳科学者(東大院・准教授)。この本は、木村俊介さんが池谷さんにインタービューをしてまとめたもの。文献も巻末に載っている。献立は次の通り。
  1. 脳を分かる
  2. 脳を伝える
  3. 脳はゆらぐ
 脳の分かり方について、池谷さんがどのような態度で研究に望んでいるのかが紹介されている。また2章では、研究におけるプレゼンテーションの重要さが書かれている。科学も人間の営みである以上、自分だけが納得していては駄目で、第三者に理解されて初めて意味をなす。研究資金を獲得するためにはこの能力は必須だ。研究費、研究費と、申請書に追われる生活はむなしいが、自分の研究費を獲得しなくては何もできないのもまた事実。
 池谷さんの脳観に1つ反論をさせてもらえば、「構造+ゆらぎ=機能」は多分間違い。あえて書くなら、「ゆらぎ<->構造<->機能」。先に構造があるわけではない。ゆらぎから構造が作られ、その構造をもとに機能が発現する。そして、機能は構造を変え、そのためにはゆらぎが必要になる。この3つのカップリングを通じて、安定と不安定を行きつ戻りつするのが、複雑系におけるダイナミックな脳観だ。実験であれ、モデルであれ、これをきちんと示すことが大事。

日曜日, 8月 24, 2008

LA小滞在記

 学会後、UCLAのChuckと会うためにLAに3日ほど滞在した。今回も大学のゲストハウス(UCLA Tivertion House)に泊まった。一泊15,000円なので値段はそこそこ(West Woodの相場は高くて一泊2万、3万は当たり前)。朝食付き部屋はきれい無線LANが使えるシアトルズベストのコーヒーが24時間飲める、など満足度は高い。写真は僕が滞在した部屋。
 1日だけ自由日があったので久しぶりに市内を散策した。実は初めての海外がLAで、大学の友達と卒業旅行で訪れた。その際UCLAにも訪れていて、「こんな開放的な雰囲気の所で研究してみたいなあ」と思ったものだった。10年後、夢が叶った。
 バスでダウンタウンに向かい、MOCA(ロサンゼルス現代美術館)やリトル・トーキョーの 周辺を散策した。日中は暑いのだが、日本と違ってカラッとしているので、ほとんど汗をかかない。美術館では「緑の週間」的な催しが、リトル・トーキョーで は日系二世たちのお祭りがあって、とても賑わっていた(コスプレした人がたくさんいた)。ダウンタウンは通りが1つ違うといきなり異国になる。ある通りは アメリカ、ある通りはメキシコ、ある通りはインドと、話されている言葉も行き交う人種もがらりとかわる。なるほど人種のるつぼだ。


 最後に、リトル・トーキョーで見つけたへんてこなビラを紹介します。求人募集らしいのだが、これで応募する人がいるのだろうか?


土曜日, 8月 16, 2008

Acoustic Communication by Animals 2008

 国際会議 [link] のためにオレゴンに来ている。オレゴン州立大学のあるコーバリス(Corvallis)は、ポートランド空港から高速バスで2時間半のところにある長閑な街だ。ゆったりと時間が流れている。一方会議は、毎日朝8時から夜8時までびっちりスケジュールが組まれていて、かなりハードだ。でも時間はあっという間に過ぎる。オレゴン初滞在は、ホテルと会議場との行き来で終わりそうだ。
 動物のコミュニケーションの国際会議は初めてだったので、どの話も新鮮で面白かった。そして、P.MarlarP.NarinsP. SlaterT. Fitch、この業界の大御所は皆話がうまい。僕は「ジュウシマツの歌の階層性と文法の発達的創発」(PDF)と題してポスター発表をした。この業界の研究者は動物が大好きで、できるだけ「ありのまま(as it is)」を知ろうとするので、KL-divergenceや有限オートマトンなどの抽象化された表現(動物行動の成れの果て)には興味が持ちづらいようだった。こういう学会では、動物のビデオや音声ファイルは必須だ。それでもSongbirdの研究者は興味を持ってくれた。
 それから、SlaterとFitchにEUREKAの宣伝ができたのは良かった。どこまで本気かわからないが、EUREKAのことは手放しで褒めてくれた。(Fitchにはポスドクを募集しているとスカウトされた)いい仕事をすると、こういうところでちゃんと評価をされるのでがんばろう。写真(上)は学会会場、(中)は滞在したホテル、(下)はオレゴン州立大学の競技場。




















土曜日, 8月 09, 2008

最後の授業

 パウシュはこんな風に語る。
僕が画家だったら、子供たちのために絵を描くだろう。ミュージシャンだったら曲をつくる。でも、僕は教師だ。だから講義をした。
この本は著名なコンピュータ科学者、ランディ・パウシュがカーネギーメロン大学で行った最終講義を書籍化したものだ。お題は「子供の頃からの夢をかなえる方法について」。インターネットで配信されて、全米では600万人以上の人が見たという。
 この講義の当時、パウッシュは膵臓癌が転移していることが判明し、余命数ヶ月と告げられいた。彼は講義という形を通じて、愛する家族と詰めかけた聴衆に、彼が大切にしてきたことをユーモアを交えて語った。これは、死を目の前にして真剣に生きている一人の人間の心の底からの言葉だ。
 YouTubeで見つけた講義をリンクします。一流の研究者、一流の教師、一流のエンターテイナー、一流の父親、一流の夫、そして一流の人間。彼の講義がそれを物語る。パウシュは2008年7月25日に亡くなった。



Links:

金曜日, 8月 08, 2008

EUREKA Wikiはじめました

 当初の予定から遅れること4ヶ月とちょっと。やっとこEUREKA ver.1.0をリリースしました。以前も紹介したけど、EUREKA = Ethoinformatical Utilities for Rule Extraction and Knowledge Dicovery = 「I have found it! (我発見せり)」というアルキメデスの言葉。行動の系列データを形式言語と見なし、言語統計言語モデルを使って解析するオープンソース・ソフトウェアです(ソースの公開にはもう少し時間がかかりそうだ)。
 公開にあたり、先週と今週はほぼ毎日徹夜で、学生がやらなかった全てのことをやった。特に、ウェブ(EUREKA Wiki)はがんばって作ったのでぜひご覧いただきたい。初心者にも使えることを目標に、ソフトもEUREKA Wikiもデザインした。間違いやわかりずらいところがあれば、ぜひ教えてほしい。今は僕が管理しているけど、EUREKA Wikiがある程度完成したら誰もが編集できるようにして、EUREKAに関する知識や経験を蓄積するための装置として活用したい。ユーザー参加型のマスコラボレーションがアカデミックでも動くかどうか、そして、EUREKAは動物行動学に新しい視点をもたらすことができるかどうか、これは実験でもある。

水曜日, 8月 06, 2008

1つの決断

 来年ラボを出てUCLAで研究をします。昨日のミーティングで僕の1つの決断を伝えた。留学するのはChuck Taylorのラボで、Artificial Lifeをとことんやろうと思っている。それから、Chuckの周りには言語学、神経科学、生態学の研究者が大勢いるので、これまで僕が生物言語チームでやってきたことを生かした研究ができると期待している。2009年4月から2010年3月まで向こうにいる予定で、その後の1年は、東大・金子研で学振研究の総括をする。
「アメリカに行けば何か変わるだろう」などという甘い考えは僕にはない。自分が変わらなければ何も変わらない。慣れ親しんだラボを出て、アメリカで新たな研究生活をゼロから始めようというのだからそれ相当の覚悟をしている。と同時に、来るべき新しい経験をとことん楽しもうとも思っている。自分には何ができるのか、そのことに懸けてみる。

 

土曜日, 8月 02, 2008

補講を終えて

 今週は補講を2つこなし、前期の授業を無事終えた。最終回はいつも情報学周辺を講義することにしていて、今回は「情報とコミュニケーションの科学(前編)」というテーマにした。[資料] 例年、学生たちが熱心に話を聞いてくれるので、僕も学期末の授業を楽しみにしている。今回のテーマは、目白大学で昨年行った講義がもとになっている。このときはT先生の配慮もあって、私語もなく、学生たちは講義内容に興味を持ってくれたようだった(一番興味を持ってくれたのは副主任の先生だった)。
 今回も「へぇー」とか「そうなんだー」とか、学生が熱心に聞いてくれることを期待したのだが、例年と空気がとても違った。相槌を打ってくれる相手がいぬまま一人で話をしているような感覚だ。何だか悔しくて悲しかった。「難しかったかなぁ?」とティーチングアシスタントの学生に聞くと「難しかったけど、私は面白かったです。」と言ってくれたので、少しほっとした。夏休み中、来学期の講義の内容だけでなく進め方についても考えないと。