科学者という職業、というか生き方は、この皮膚のように引きはがせないものとして続いていくのだろう。科学者になろうと思ったのはたぶん高校2年の時だったと思う。その頃流行っていたのがホーキングの宇宙論で、相対性理論や量子論を駆使して宇宙の起源や進化を解き明かすそのエレガントさにすっかり魅了された。以後、浪人生活をへて物理学科へと進学し、さらに紆余曲折を経て人工生命に到る。悩みも多いが、科学者をやめたいと思ったことはない。性分なのか。
ここで、科学者に関して考えさせてくれるスタイルの違う本を2冊紹介したい。一冊目は、酒井邦嘉著の「科学者という仕事」。酒井さんは言語の脳科学の騎手で、僕は言語学の授業でお世話になった。著名な科学者の逸話や文献を豊富に取り入れて、これから科学者を目指す人にアドバイスを送っている。とにかくすごい文献の量で著者の熱意を感じる。教科書的で、良くも悪くも正論。
二冊目は、大沢文夫著の飄々楽学。著者は生物物理学のパイオニアで紫綬褒章も受章している。駒場のセミナーで一度お目にかかったことがあるが、その人柄にとても親しみを感じた。いかに大沢先生が研究を楽しんでやってきたかが、生き生きと描かれている自伝。高分子電解質、ゾウリムリ、筋肉、鞭毛モーター、これだけ多様な対象を渡り歩きながら、しかしその背後に潜む規則を明らかにし、ルースカップリングという概念に到達する。自分のやってきたことで勝負のできる本物の科学者だ。
この2冊を比べると、酒井本は、「科学者とはペケペケでなくてはならない」という実直な感じ。一方、大沢本は「ペケペケすると楽しいよ」という先輩からのアドバイス。飲み物に例えると、前者は青汁で後者はデカビタC。どちらもいいが、効き方が違う。
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