木曜日, 10月 02, 2008

自然と言語

 これは1999年にチョムスキーがシエナ大学(イタリア)に滞在した際に受けたインタビューに基づいて編集された本だ。自分に最も関係のある3章を読んだ。
  1. 編者による序論:言語理論における幾つかの概念と諸問題
  2. 言語と精神についての展望
  3. 言語と脳
  4. 極小主義のインタビュー
  5. 世俗司祭と民主主義の危機
 言語と脳の基盤的諸原理がどのように統合されるかに関して、チョムスキーは3つの立場を紹介し、3が最も妥当であろうとしている。
  1. 言語及び高次精神機能は生物学の一部ではない
  2. 言語及び高次精神機能は生物学の一部、かつ、統一化は手の届くところにある
  3. 言語及び高次精神機能は生物学の一部、しかし、まだ基盤知識が不十分なので統一化は時期尚早
 チョムスキーは言語の完全性をよく雪の結晶に例えるので、1の立場だろうと思っていたから意外だった(「生成文法の企て」の中ではそうだったはずだ)。物理と化学が統一を果たしたのと同じようなイメージで、脳と言語の統一を考えているようだ。さらにチョムスキーは3つのテーゼとして、マウントキャッスル(神経科学者)、ハウザー(行動生物学者)、ガリステル(認知神経科学者)らの考え方を紹介して、自分の見解を述べている。行動生物学のアプローチのところに気になることが書いてあった。
たとえば、鳥類について、「発達研究における随一の成功談」であるが、進化についての「納得のいく概要」は一切なく、ことによると納得のいかない概要すらなさそうである
要するに、鳥は言語発達のモデルにはなるけど、言語進化のモデルにはならないということだろうか?鳥を言語進化のモデルとする時は、収斂進化前適応を考えるので問題ないと思うけど。もちろん、これで意味的な側面を考えるのは難しいだろう。
 他にもディーコンの脳と言語の共進化に言及したりして、チョムスキーの博識さが伝わって来る。言語が脳という神経系にしか宿らないものなのか、それともある条件を満たせば、動物やロボットにも獲得できるのかはよくわからない。
 思考の糧として3章は一度読んでおいて損はない。全体的に翻訳は表現が硬くて読みづらいので、原著を読んだ方が良いかもしれない。

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