火曜日, 2月 24, 2009

衝動

禍福は糾える縄のごとし
 良いことと悪いことは表裏一体の関係にあり、入れ替わり立ち替わり流転する様を表現した言葉。昔の人はうまいことを言ったものだ。このところ研究が行き詰まり、完全にグロッキーな状態だった。「」の状態。あれもしなきゃ、これもしゃなきゃが大きなプレッシャーとなり、悪循環を生む。
 それでも、悪あがきをしていると、どこからともなく幸運が舞い降りることがある。いや、それは僕の努力とは無関係に、ある日突然空から降って来る。そうして、心のひだが平静を取り戻し、凪が訪れる。「」の状態。スーパーマンじゃないんだから、何でもかんでもは出来ない。わからないことはわからないし、できないことはできない。
 等身大で行く覚悟ができたらしめたもの。「しゃなきゃ」は自ずと「したい」に変わる。そいつを動かしているのは、衝動


水曜日, 2月 18, 2009

谷中銀座で猫日和

 奥さんと谷中銀座を散歩してきた。日暮里の駅から5分ぐらい歩くと、夕焼けダンダンという眺めの良い階段に着く。ここから下に情緒あるお店が続いている。一歩足を踏み入れると、不思議と懐かしい空気に包まれる。竹細工の店、お茶屋さん、お惣菜屋さん(肉のサトーのメンチカツ、最高です!)、喫茶店、八百屋さん、そして、猫、ねこ、ネコ、にゃー。商店街の人達にかわいがられているので、どの猫もまったく物怖じしない。人とお店と猫が融和する温かい商店街だった。
 今日もにゃんこセンサーはびんびん。出会った猫達を紹介します。

マタタビ風の棒に夢中の猫。
八百屋のアイドル、りんごちゃん。
僕のつくねを平らげて、「あれっ、もう終わり!?」という顔をしている黒ちゃん。そして、
「ネコと関係ないじゃん!」って。実は大ありなんです。
 ここ満満堂では、とても珍しいコピ・ルアク(別名 ジャコウネココーヒー)がいただけるのです。コピ・ルアクとは、ジャコウネコがコーヒーの実を食べ、未消化のまま糞に出てきたコーヒー豆からとれるコーヒーです。あることは知っていたけど、まさかここで会えるとは。値段は1800円と超高いのですが(銀座なら6000円だそうです)、一生に一回だからと思ってチャレンジ。店主が、生豆や焙煎豆のにおい、コーヒーサーバに残った匂いなどをかがせて、説明してくれます。コピ・ルアクは生豆の段階から、チョコ(の包み紙)のような甘い匂いがしました。そして、口に運んでからの香りの残り方が、他のコーヒーとは全然違いました。寝る間際まで香りを感じる人もいるそうです。確かにこれは飲む価値があります。
 居間で寝ている猫を見て、ニヤリとしたあなた。駄目です。それはいけません。そんなあなたにはこれ。

月曜日, 2月 16, 2009

脳は奇跡を起こす

 久しぶりに面白い脳科学の本を読んだ。本書は、ノーマン・ドイジ著「The Brain That Changes Itself」の抄訳(たぶんオリジナルの10章が訳されてないのと、参考文献がカットされている)。著者は精神科医(かつ作家)で、脳の可塑性にまつわるエピソードを集め、わかりやすく解説している。1つも絵がないのに、文章を読むだけで内容がすっと頭に入って来るのだから、この腕前はたいしたものだ(訳が読みやすいのも良い)。専門用語もきちんと説明されているので、消化不良になることはない。目次は以下の通り。
  1. ひっきりなしに転ぶ女性—平衡感覚を失った患者の物語
  2. 脳と体が「非対称」の女性—自力の訓練で学習障害を克服する
  3. 脳の地図を書きかえる—可塑性研究の第一人者、マーゼニック
  4. 性的な嗜好と愛—ネットポルノ中毒に苦悩する男たち
  5. 絶望の淵からの復活—脳卒中患者たちを救ったCI療法
  6. 脳の“ロック”を解錠する—シュウォーツと強迫性障害の患者たち
  7. 腕がない男の消えない痛み—「幻肢痛」を絶ったラマチャンドラン
  8. 想像が脳の構造を変える—パスカル‐レオーネと脳内訓練の威力
  9. 記憶の“亡霊”と決別する—記憶と感情をなくした男性の物語
  10. 脳は「部分の集合体」を超える—脳が半分しかない女性の物語
 脳機能については、局在派 vs. 可塑性派という構図をとることが多い。前者は、脳の1つの場所にはただ1つの機能があり、それは固定的だと考える。この立場をとると、例えば、事故で言語野を損傷したら、言葉を回復させるのは一生不可能ということになる。後者は、脳はみずからの経験に基づいて常に再構成され、子供はもちろん、大人でさえもそれは起きると考える。この立場では、事故で言語野を失ったとしても、トレーニングを積むことで、他の脳部位が言語機能を代替しうるということになる。そして実際は、後者を支持する事例はたくさんある。
 ラマ・チャンドランが、ミラーボックスを用いて幻肢(事故などでなくした足や腕に痛みを感じる)を治療した話(7)は有名だ(cf. 脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)
)。その他にも、アブノーマルな性的嗜好の話(4)、脳梗塞から見事に復活した人の話(5)、半分しか脳が無かった人の話(10)など、興味深い臨床例が紹介されている。脳の可塑性がなければ、いづれも起こりえないことだ。
 たくさんの脳のデータを持ってきて、それを平均値と分散で語ろうとすると本質を見失う。むしろ、こういった特異と思われる事象をきちんとみることこそ、脳をわかる近道なのではないか。

木曜日, 2月 12, 2009

揺れる思い

 毎日少しずつ蔵書の整理をしている。来月中旬にはアパートを引き払うので、必要最小限の物を残して、残りは処分しなくてはならない。生活用品や衣類は、要不要がすぐに判断できるが、本は思い入れがあるので簡単にはいかない。大学時代、神保町の古本屋でなけなしの金をはたいて買った本や、絶版の学術書、勉強の軌跡のある演習書は絶対捨てられない。今の研究に関係する本ももちろん捨てられない。どれもそれなりに存在理由があるので、なかなか整理ができない。これらの本は、僕の中に取り込まれ、血となり肉となり、僕の「僕らしさ」の骨格となっている。捨てるべきか、捨てざるべきか。
 そこで、学術書を除き、図書館でも借りることができる本は、売るなり捨てるなりし、どうしても未練が残るものは「読んでから手放す」ことにした。その中から、再発掘した2冊の本を紹介したい。
 一冊目は、五木寛之の「生きるヒント」(僕がもっているのは文庫版ですが、デラックス版は文庫版全てを収録してる)。平易な言葉と等身大の目線で書かれた素敵なエッセイ集です。


マーク・トウェインの「ユーモアの源泉は哀愁である」という深い言葉に出会ったのがこの本でした。物事の表裏を意識できるようになったのはそれからです。五木寛之の「青春の門」もお勧めです。
 二冊目は、神谷美恵子の「生きがいについて」。著者は、ハンセン病患者の治療に人生を捧げた精神科医で、その経験から生きがいについて考察している。ゆったりと書かれた文章は、豊かな教養に基づく洞察と深い慈愛に満ちている。こんな時代だからこそ価値ある一冊。

月曜日, 2月 09, 2009

来た道、行く道

 Chuck (来年行く研究室のボス)が学会のために来日したので、久しぶりに再会した。Chuckの専門は集団ゲノム科学(Population genomics)で、マラリアを媒体する蚊の集団の遺伝子情報を研究していた。その後、人工生命(Artificial Life)の立ち上げに貢献し、現在は、鳥の生態学を中心に研究している。とても博学で頭の回転が早く、60歳を過ぎたおじいさんにはとても見えない。
 昼過ぎに駅で待ち合わせをして理研に行き、生物言語チームの研究をざっと紹介した。説明を聞く表情はとても真剣で、鋭い質問が次から次へと飛んで来た。鳥の歌の「意味構造」に関しては、なかなか議論が噛み合なかった。たぶん、互いがもっている前提と「意味」の定義がずれているのだ。理研を見学した後、東大でセミナーをしてもらった。内容は、彼のチームがメキシコで行っている野外調査とモデルを使った解析結果。生物系の院生たちも話を聞きに来ていたが、途中からシンボルグラウンディングだの、チョムスキー階層だのが出て来て、面食らったに違いない。あれじゃわからないよ。
 Chuckは、僕をメキシコの野外調査に行かせるつもりでいるようだ。調査地はメキシコシティーから車で8時間、さらにボートで2時間行ったジャングルだそうだ。orz。どうなることやら(一回は行ってみたいんだけどね)。それから、Edと解析手法について共同研究をする。EdはUCLAの言語学科の教授で、チョムスキーの弟子。昨年末に受理された論文にとても良いコメントをくれたのが彼だ。
 振り返ってみると、学部では素粒子理論と天文学を勉強し、修士で素粒子実験、博士で人工生命をやった。研究員になってからは、動物行動学と計算言語学をやってきた。そしてUCLAで新たに生態学をやり、帰ってきたら東大でカオス力学系をやる。最近では自分の専門がよくわからない状況なのだが(申請書には計算生物学(Computational Biology)と書くようにしている)、やるからには極めたい。そして、これらの経験と知識を生かして、新しい人工生命にアプローチしたい。

火曜日, 2月 03, 2009

ご縁

 忙しくて郵便物をほったらかしにしていた。たまたまエイブルの字が目に留まり、何だろうと思って郵便物を開けてみたら、アパートの契約更新の書類だ。契約終了日が、平成21年2月28日と書いてある。にがつにじゅうはちにち、ネ。
 エーーー!!!
今月じゃん! 3月20日までに、引っ越せばいいやと思っていたら、青天の霹靂(いやいや本当に)。ということは、渡米するまでどこに住めばいいんだorz。慌てて書類を何度も何度も読み直し、入居できそうなマンスリーマンションをネットで調べた。その結果、僕の脳が導いた選択肢は2つ:

1. 契約通り2月28日までに退去
:急遽引っ越し + マンスリーマンション + 退去1ヶ月前報告を破った違反金
2. 1ヶ月住むためだけに契約更新
:契約更新料(家賃1ヶ月分)+ 3月分の家賃

どちらもほぼ同額だが、1はあまりにも急過ぎて研究どころではない。それから、2のような短期の更新は通常成立しない。万事休す。
 翌日、駄目もとでエイブルに2を提案してみた。案の定、契約更新は難しいだろうとのことだったが、外国に行くのでそこを何とかとお願いして、大家さんと交渉してもらった。そして、5分後かかってきた電話が告げた案は、

3.「これもきっと何かのご縁ですから、3月分の家賃だけで結構ですよ。」(大家さん)

そう。僕らはご縁という見えない糸で繋がっている。ありがとう、大家さん。

日曜日, 2月 01, 2009

オネムジャー

 ついさっきラボから帰って来た。テレビをつけると戦隊モノがやっていた。今の子供たちのヒーローは、炎神戦隊ゴーオンジャーというらしい(僕が幼稚園の頃は、太陽戦隊サンバルカン)。懐かしいなあと思って見ていたら、昔の戦隊モノと全然違うことに気づいた。まず、登場するお兄さんがみんなイケメン。そして、胸元がちらり、お色気的な要素もある。日曜日の朝は子供だけでなく、お父さんもお母さんも(そして研究員も)釘付けだ。正義の味方も時代とともに変わるんだなあ。
 一晩で学生のレポートを採点して成績をつけた。情報処理実習Bの授業では、全部で10回レポートを出した。受講者は約70人いるので、1人1分で採点したとしても12時間近くかかる。もちろん実際はそれ以上かかった。なんとか締め切りには間に合った。ふう。
 実はもう一つ締め切りがあって、赤ちゃん学会から頼まれたコメント論文を書いていた。なぜ僕?と思ったら、赤ちゃん学会では、積極的に異分野との交流を目指しているそうだ。発達心理学の人はもちろん、脳科学、教育学、ロボットなど、様々な分野の人がこれまでにコメントを書いていた。とても良いことだと思う。僕が読んだ論文は、乳児の音声発達に関するもので、とても興味深い内容だった [Link]。こちらもなんとか無事終わった。はふう。徹夜続きでオネムジャー。